★「3人で行こう! 仕事も子どももあきらめない!」インタビューは、【3人の子どもを育てながら、独自のワーキングスタイルで好きな仕事をして輝いている女性たち】を紹介し、その生き方の秘訣を伺うコーナーです。さまざまな理由から、働きながら子供を産もうかどうか迷っている皆さんの、お役に立てれば幸いです。
■自らの子育ての体験を生かし、職業体験を通し子供たちに夢を与える活動に取り組む
 

朝山あつこ(あさやま あつこ)さん NPO法人キーパーソン21代表

 
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■ 「長男の「高校に行きたくない」という言葉がはじまりでした」
子育てをしていれば、必ず突き当たるのが「なぜ勉強しなくてはいけないの?」という子供からの問いかけ。長男(現在大学院生)が中学2年生の時、「高校に行きたくない」という言葉がきっかけで、子供たちにキャリア教育の場を提供したいと考え、手作りの出前講座を始めたという朝山さん。
それまでのキャリアを伺うと、「これといった経歴はなく普通の母親でした」と明るく笑う。
「長男が中学生のとき、学校があんまりいい状況じゃやないことを感じました。
子供たちを見渡しても元気がないし、暴れたり、無気力になっている。自分が中学生のときとは、ぜんぜん違うんです」。
朝山さんは、わが子の言葉を聞き、「高校に行かない選択肢がある」ことに驚いた。
母親として、大学に行って、就職して、家庭を持つ生き方が当然と思ってきたので、まさに「目からウロコ」だったという。
「子供たちは、何のために学校に行くのか考えたこともなく、当たり前のように行かされているんです。私たちのころは、家庭を支えるためにマイホームを持ったり、ハワイ旅行に行ったり、物質的に豊かになろう、がんばろうという欲のようなものがあったと思う。今は、それがない。今の子は、困ることが何もないんですね。ご飯を食べたり、自分の部屋があるのもあたりまえで、何のために存在しているか、生きる意味かがわかりにくくなっています」。
物質的に豊かになることを目指すのは、単純で達成感があるが、子供たちは、そんなにせっぱつまった環境に置かれていないのだ。

■「自分の好きな仕事であれば頑張れるし、社会の活力はあがる」                               
「偏差値やいい大学に行くのが当然というような風潮の中で、子供たちの個性を生かした役割がわかれば、がんばる気持ちが育つ」というのが朝山さんの持論だ。
「大学を出てせっかく入った会社を、3年で辞める人もいる。たとえば、理系の子供は、単純に報酬が高いという理由で医者を目指す傾向にあるが、他にも色々な仕事があるはずなのに、親も先生も、アドバイスができない。学校でも家庭でも、人材を育てることに手抜かりではないか」と朝山さんの疑問は膨らんでいった。
朝山さん自身も、苦い思いがある。
「自分をふりかえっても、大学を卒業し結婚し、平凡に家庭を持つのがあたりまえと思ってきました。親にも、旦那さんに尽くて家庭を持つことが女の幸せと言われ、経験がないので、何も考えずそうかなと育ってきて。
もしかしたらもっと私にあった道もあったかもしれないが、それは親が決めるのではなく、子供時代に本人が考えるもの。私は、押し付けるのではなく、一緒にいいところを見つけて、考えられる親になりたいんです」。
「自立する自分をめざす」ことが、朝山さんの子育てにおけるポリシーだ。自分の好きな仕事であれば、頑張れるし、社会の活力はあがると思っているからだ。たとえば、文章が得意な人は、確固とした実力があれば、会社がつぶれてもいかようにも生きていける。自分にとって、それが何であるか気づくことが、真にハッピーなる道なのだ。
「自分を知り、自分がどういう進路をとればハッピーになれて、自分の価値を生かせるのかを学ぶプログラムが学校にない。みんなそう思っているけど、どういうふうにしたらいいかわからない。なんで勉強しなくちゃいけないかと尋ねられても、答えられる大人は少ないんです」。
■「理念はあっても、手法を提供しなくては、ただ言っているだけになってしまう」
最初は、朝山さんも含め3人のボランティアグループで、こういうことが必要だよね、と意気投合して任意団体をたちあげた。その後、「たまたま生き方学習に深く共感していただける方々にめぐまれ」NPOを組織を設立。
一番苦労したのは、やはり生き方学習のためのプログラム開発だ。
「理念はあっても、手法を提供しなくては、ただ言っているだけになってしまう。具体的に、子供に「そうだよね!」と思わせて、アクションをおこさせなくては。コンセプトは出てきても、面白く作るのが大変。大人の概念を押し付けるのではなく、明るい夢を描けるプログラムを心がけました。だからゲームを取り入れたんです」。
試行錯誤の甲斐あり、「すきなものビンゴ」「おにぎり一個の仕事」などのユニークなゲームが面白いと、大人にも子供たちにも好評だ。6月19〜22日には、東京ビッグサイトで開催される東京おもちゃショー2008への出展も予定しており、「プログラムを一人でも多くの人に広めたい」と意気込む。
現在は、学校や団体での出前授業をメインで実施しているが、数名のグループへの派遣や、個別のカウンセリングも実施している。親子や個人単位で、いつでも授業を受けたい人が受けられるような体制も推進している。
最近では、大手企業からの協賛も得ることができ、企業との連携プログラムも盛んになってきた。話題の学童保育「キッズベースキャンプ」にも、2008年より「すきなものビンゴ」と「お仕事マップ」を提供している。
■「自分の子供を育てる=よその子供も育てなければ意味がないんです」
朝山さんは、「子育てほどクリエイティブな仕事はない」と胸を張る。
そもそも朝山さんがNPO法人キーパーソン21の活動を始めたのは、自分の子供をちゃんと育てられるのかという母親としての不安から。自分の子供3人を社会に送りだしても、周りのみんなが元気になれない社会は、自分の子供もハッピーではないと感じたからだ。
「自分の子供を育てる=よその子供も育てなければ意味がないんです。社会は、チームなので、認め合う力・コミュニケーション能力・自分を大切にする力を育てたい。ひとりの母親として、20才までに、ちゃんとした大人を育てたいという気持ちで、子育てもNPO活動も取り組んでいます」。
「一人でも多くの人が、自分の個性を生かし、イキイキと輝くための、お役にたちたい。地味でもいいので、着々と一人ひとりのお手伝いをしていきたい」と語る朝山さん。自分の子供のためにも社会全体をよくしたいという、一人の母親の切実な思いは、今、着実に広まっている。(取材・常山あかね)

●●プロフィール 朝山あつこさん。  NPO法人キーパーソン21代表。
NPO法人キーパーソン21代表。「子どもたちに夢と職業意識を運びたい」をスローガンに、学校教育や企業研修の現場で、生き方やキャリア教育に関するワークショップや講演を実施。3人の男の子の母親。 

■3人のお子さんがいてよかったことは?
3人はいいですね。子供同士を比べなくてすむ。一人ひとりのよさを大切に、個性を最大限に生かすことが、、まさに私がやっているキーパーソン21の取り組み。もし長男だけだったら、子供への期待が強くなりすぎて、許せないこともたくさんあったと思う。2人、3人になると「ま、いいか」などと、ゆとりが出て、わかってあげられるようになった。
■家事・子育てと仕事の両立で意識していること
活動をはじめたころは、家庭を省みる余裕がなかったが、それではダメ。家が荒れるのはもちろん、食事の支度、洗たく、子供の学校のことなど、すべてがおろそかになってしまった。そこで、やっとボランティアで活動を続けてはいけないということに気づいた。
家族に迷惑もかけるし、美容院、スーツ、靴、外食など、ボランティアなのにお金もかかる。誰かに負担を強いる構造は、継続できるものではないし、きちんと仕事への対価が払われなければ組織として継続性がなくなる。
子供たちは、私の仕事を見て、理解はしてくれているとは思う。特に現在大学院生の長男は、よく理解してくれて協力的。私が過労で倒れたときも、お皿を洗ってくれたり。
夫は、DVD作成を手伝ってくれたりと、部分的な協力はしてくれる。掃除・洗濯については、ハウスキーピングを利用するなど工夫している。ご飯にはこだわりがあり、忙しくても必ず自分が作るようにし、家族への愛情表現としている。
■これまで仕事をやってきて一番嬉しかったこと
講座を受けた子供の声以外の何者でもない。子供と実際にふれあったときに、「なんだ、こうすればよかったのか」と気づく瞬間がある。子供のその場での表情の変化に、何よりも、手ごたえややりがいを感じている。
■ワーングマザーやこれからワーキングマザーを目指す方へのメッセージ
母性に基づく子育ては、女性しかできないこと。母親の喜びは、仕事では得られない。子供の成長の喜びは、何者にも変えがたいと思う。その喜びを噛み締めて、子育てしほしい。
女性は、仕事面でも、チャレンジしやすい環境や、柔軟性があると思う。
男性のように家計の大黒柱ではないことが多いので、うまくその立場を活用し、仕事と子育てのバランスをとって、納得いく生き方をしてほしい。