「働く場所に子どもたちを預けるところがあれば!」
そんな夢を叶えつつあるアメリカの試みをご紹介します。
●学校を親たちの職場へ!サンタ−ローザ校
サンフランシスコの街から約1時間ほど郊外のワインで名高いソノマバレー、サンタローザ市。コンピューター関連の大手企業ヒュ−レートパッカード(HP)の敷地内に幼稚園から(K)3年生までの公立小学校がある。開校は1993年、HPが開校資金約8万9千ドルを出資、10年間たった1ドルで学校区に貸している。原案は1990年に学校区の教育長が「学校を親たちのところへ」とHPに持ちかけた。
広報部ジェフ・ウイ−バー氏によると、「サテライトスクールは親が子どもの教育に関与出来ること、また企業の教育に対する強いサポートが、他の公立と比べると大きな違いだ」と言う。ちなみにサンタローザは社員約1500人、会社のファミリーフレンドリープログラムは、社員に融通性のある勤務時間を提供し、親たちが学校に参加でき易い環境だ。事実、社員の50%が学校のボランティアを引き受け、その3分の1は父親だという日本の現状からは信じがたいような数値もある。他の学校区と比較して標準テストの得点が43%も高いのは(カリキュラムは他の公立と同じ)親の参加が盛んだからという。また欠席も少ないし、親の転職率も極めて低い。また放課後のデイケア−の利用率は90%にものぼる。
勤続14年広報部ヘンリー・コムリ氏、娘たちが1年生と3年生に通っている。朝8時半始まり、娘たちを学校へ落としてから自分のオフィスに行く。妻は専業主婦でまだ赤ちゃんがいる。彼女は週に3時間学校へボランティアに来るし、お昼も子どもと一緒に食べる。(ヘンリーは月に1回ほど娘2人と)ケルシー・コムリは3年生、お父さんのヘンリーと学校でお母さんが作ってくれたランチを食べるのが楽しみで、母親と父親がボランティアとしてクラスに現れるのが嬉しくて、誇りに思っている。お腹をこわした時、すぐ近くに父がいて家につれて帰ったことがあったと嬉しそうに教えてくれた。まだ幼い子どもたちにとって、こうして親の姿が見える学校は安心して学ぶことができる環境そのものだ。
ヘンリーはこうして企業と地域とが協力しあい、また親も教育現場に参加することが、双方にいい影響を与えていると確信している。親にとっても教育現場に身を置くということは、必然的にいい模範となる訓練も意味するし、先生はまたその模範になるべく努力を惜しまない。
このHPサンタローザ校は数々の賞を受賞、さまざまな教育関係者や州教育局などからのツアーが多い。
また、フロリダにある教育コンサルティングの会社“School At Work”のメアリー・ワードさんによると、子どもをオンサイトの学校や保育所へ預ける親の98%が、会社に留まる最大の理由としてこのオンサイト学校をあげ、また各企業は片目をその未来の発展に向け、片一方を転職や出産などでやめる人の穴埋めのために新規採用にかかるコストに向け、それらを考慮した上で、ファミリーフレンドリーやバランシングワーク(フレキシブルワークタイム、仕事分担、敷地内学校など)といった家族を支援するプログラムを積極的に打ち出してきていると言う。会社に対する忠誠心、モラル、生産性は、このプログラムにより向上し、教育環境も改善されるという一挙両得を狙っている。
企業と学校間の責任問題や、企業を辞めたり転職した場合はどうなるかという問題はあるが、衝撃だったコロラドの銃乱射事件や関連事件を重く見たクリントン前大統領は、親はもっと子どもと過ごす時間が必要として、もっとオンサイトの保育所を増やすこと、働く時間に融通性のあるテレコミューティングなどの選択肢を増やす提言をしている。これをうけて、アメリカではさらにオンサイトの学校は増える勢いにある。
しかし、34年間モンテソーリ学校を経営してきたカリフォルニア州ロスアルトス市のイングルマン先生はこう警告する。「必要ではないのに働く母親が増え過ぎたことが、子どもたちを余計なストレスにさらしている。母親はすぐ過ぎさってしまうこの貴重な幼児期を子どもとしっかり過ごすべきだ」。アメリカでは1969年に38%だった働く母親が今年は68%と約2倍になった。これが、子どもと過ごす時間を週に22時間も減らしている原因であることは疑いようもない。(取材/文 つちやみちこ)