★「3人で行こう!仕事も子どももあきらめない!」インタビューは、【3人の子どもを育てながら、独自のワーキングスタイルで好きな仕事をして輝いている女性たち】を紹介し、その生き方の秘訣を伺うコーナーです。さまざまな理由から、働きながら子供を産もうかどうか迷っている皆さんの、お役に立てれば幸いです。
■「福島から、ネットショップでイタリアの食文化を発信」
吉田亜樹子さん
トスカニーワインハウス店長
■ 「子どもは、早く産んで早く仕事に復帰したいという思いがあり、3人大急ぎで産んだんです(笑)」
トスカニーワインハウスは、楽天市場のモールに出店しているイタリアワイン&食材専門のネットショップ。開店6年目にして、月商約3000万〜6000万。ワイン部門での受賞歴もある人気ショップだ。デパートでも手に入らない食材の豊富さが評判を呼び、有名人の利用客も多いという。
この店長を務めるのが、アッピさんこと吉田亜樹子さん。自分の好きなことを活かしてショップを持つことは多くの女性が憧れるが、なかなか敷居が高いのが現実。そこで、まずは、アッピさんがこのお店をはじめたきっかけを伺ってみた。
「夫の実家が福島県の酒屋だったんです。もともと造り酒屋だったんですが、戦後小売になりました。義母が一人で店をやっていましたので、一人息子である夫が店を継ぐことになり、私もついていったんです」。
アッピさんは、大学卒業後、日商岩井の女性総合職二期生として、輸入業務を担当していたというキャリアの持ち主。福島でご主人の実家を継ぐことに迷いはなかったのだろうか。
「夫とは、大学1年頃からつきあっていまして。つきあうときから長男とわかっていたので、覚悟はついていました。24才で結婚。子どもは、早く産んで早く仕事に復帰したいという思いがあり、3人大急ぎで産んだんです(笑)」。
意外なことに、総合職として企業で働いた経験が、逆に、アッピさんの決意を固めたという。
「商社で働いていて、正直、先が見えちゃった気がして。この先がむしゃらに働いて、定年前で部長ぐらいだったら、つまんないなと。4年ぐらい働いてサラリーマンの辛さもわかってしまった。
もっと自分のやりたいことをスパッとやりたかったけど、それに到達するために時間がかかってしまう。それだったら潔く辞めてやりたいことをやりたかった」と語る。
「それに、総合職で働いていたので、子供を産んで働くイメージがなかったんです。
男性と同じように朝から晩まで働いては、とても両立は無理だと思い、子どもは会社を辞めてから産もうと思ったんですね。基本的には仕事が大好きなので、早く子どもをある程度育てて、あとでゆっくり働きたかった。今思えば、早く子どもを産んでおいて本当に良かったと思います」。
その後、福島の実家に戻り、手狭だった実家の近くに新たに店舗を構え、中規模程度の酒店をご主人と開業したという。しかし、酒屋もディスカウント店の全盛でどんどん競争が過密になり、売り上げも下りのエスカレーターだった。「こんなんじゃだめだ」と危機感を持った。
そんな矢先、アッピさんは、楽天でイタリアワイン&食材のネットショップ「トスカニーワインハウス」を始めることになる。
■ 「共同直輸入とはいえ、何百ケースも買わなきゃいけなくて大量に在庫があまってしまって。それが、ネットショップを出店してすべて解決したんです」
「根が高級食材が好きだったんですね(笑)。最初は好きだからという理由だけでイタリア食材の取り扱いをはじめたんですが、そのうち共同で直輸入する仲間ができて。でも、なかなか地元では需要がなく売れなかったんです。そんなとき、たまたま楽天の話を聞いて出店することに決めました」。
もともとイタリアワインが大好きだったアッピさんだが、ご主人が出張でイタリアに行くようになりお土産のサラミや生ハムを食べているうちに、「あまりのおいしさ」に自分でもイタリアに行きたくなり、共同購入を始めたという。
「もともと商社で仕事をしていたので輸入事務は簡単だったんです。でも、お客さんに直接商品を販売することはすごく難しいと感じましたね。
でも、出店して半年間ぐらいは誰からも反応がなかったですね。メルマガを書いても反響がないし、売れない演歌歌手のような気持ちでした(笑)。でも、ある日食材を売り始めたら反響がよく、そのうち雪だるま式に売り上げがふくらんでいったんです」。
アッピさんは、成功の要因をこう分析する。
「はじめから広がりのあるマーケットに出たというところがよかったんだと思います。
「イタリアの食とワイン」というと、ボリュームゾーンが大きかったんでしょうね。
世界中のワインを扱うのは資本的にやりきれないし勉強もしきれないので、イタリアに絞ることにした。そうすれば集中的に勉強できると思ったのが、結果的に正解でした」。
■「見守ったりがまんすることを、子育てを通じて学んでいます」
こうして順調に事業を軌道に乗せたアッピさんだが、「時間を作ってメルマガ1本を配信すれば売り上げが上がる!」という時間との闘いで生きているネットショップの店長と、3人の子どもの子育てをどうやって両立しているのかを伺ってみた。
「子どもの顔をたまによく見ると、大きくなったなぁと思います(笑)。最初は主人の母と同居していました。今は別居していますが、近所なので、子どもの面倒をお願いすることもよくありますね。夜7時〜8時には家に戻る生活ですが、おばあちゃんの協力がなかったら出張にも出れない状況です」。とにかく、周りの人を説得し、協力を得ることが先決という。
それに、会社で人を育てることは、子育てとかなり似ているというのもアッピさんの持論だ。「ついついスタッフには大上段にかまえて物を言ってしまうが、どうすれば人間として教えることができるのかが本当に難しい。子育てとすごくだぶっているし、見守ったりがまんすることを子育てを通じて学んでいます。まだまだこの分野に関しては、発展途上中です」と笑う。
そんなアッピさんに将来の夢を伺ってみた。
「将来は、ネットショップだけではなく、実販ができたらいいなと思っています。来店のあるところで売りたいという思いがあるんですね。パワーが分散される危険があるけど、挑戦してみたいです。東京にいきなり出店するのではなく、まずは一つの完成系を田舎で作らなければならないと思っているんです」と熱く語る。
ネットショップを続けていると、どうしてもスタッフのコミニュケーションが少なくなりがちなのが、もっかのアッピさんの悩み。「もっとイタリア的に本能で触れ合いたい。一緒にごはんを食べたり飲んだり、匂いをかんだり。生でしゃべって気持ちをぶつけあう。実態のある人間のつながりを大切にしたいし、人間の匂いのするお店になりたいんです。ネットだけで完結せず、おしゃべりな店員さんがお客さんとずっとしゃべっているような、イタリア的な陽気な店が理想です」。
仕事やイタリアの話になると、本当にキラキラと輝いているアッピさん。
「仕事なしでは生きられない」という言葉通り、働くことやビジネスが本当に好きで好きでたまらない、本物のビジネスウーマンに出会った思いだった。
「子どもを育てながら働くのは本当に大変なこと」。
私も最近会社をはじめて、このアッピさんの言葉の重みが、ズシリと胸に響いてきている。しかし、働くということは、そういうことだ。「毎日が時間との戦い」というアッピさんの気持ちが、少しづつ理解できてきたように思う。
(取材 常山あかね)
●●プロフィール吉田亜樹子さん。トスカニーワインハウス店長。大学卒業後、日商岩井に総合職として勤務。結婚後、ご主人の実家の酒店をを継ぎ、現在に至る。中1、小4、小2の3児の母。
■3人のお子さんがいてよかったことは?
3人子どもがいるとホッとする。子どもの世界が自然とできるから、人数が多くてよかったと思う。子どもが一人のときは一番大変だったかな。
■家事・子育てと仕事の両立で意識していること
3女が、2〜3ヶ月、朝、学校に行かない日が続いたことがある。やはり寂しいのかもと感じたが仕事は私の生き甲斐でもあるし、生活でもあるので、辞めることはできない。「じゃあどうしよう」と思ったとき、「朝ごはん大作戦」を考えた。これまで、おにぎりと果物だけとか、朝ごはんを手抜きしていたことに気づいた。それをご飯、煮物と、思わず朝起きずにはいられないような、旅館風の定食メニューを実行。味噌汁をつくり、だしをとってそれで煮物を煮る。私も早起きになったし、みんなの始動もよくなり、家庭の雰囲気がよくなった。
あとは、「読み聞かせ大作戦」。毎晩寝るときは、読み聞かせを実行。
最初は学校に無理やり連れていこうと思ったが、無理やり連れていってもダメだった。次はほっておくことにした。そこで、この作戦ををはじめたら、3女のようすも、次第によくなり、成果が出てきた。それ以来、どうしたら子どもが自発的に動けるようになるかを、常に意識し工夫している。
■ワーングマザーやこれからワーキングマザーを目指す方へのメッセージ
子育てしながら働くのは本当に大変。周りの理解を得られなければ、ムリ。会社員の場合、それを押してでもあなたにいてほしいと思われる、能力を発揮すべき。まずは、仕事で認められることが大事。
会社員と同様、起業することも大変。私自身は、自由できままな人間なので、会社の枠にははまりたくなく起業に向いていた。定住するのは、福島でも、東京でも、イタリアでもいい。起業することによって、それが実現できる。今も、イタリアで数ヶ月暮らしたいと思っている。起業したら可能性はいくらでも広がるし、生き方はいく通りもある。今の日本の会社は男性社会の価値観が強く、働くのに女性が不利といわれているが、型にはまらず自由に生きればいいと思う。もちろん、最終的には、自己責任。そういう覚悟があれば、どんどん起業したらいい。失敗したらやり直せばいい。また、「親子の絆」は、時間とは違う形で築けばいいと思っている。
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