ビジネスパーソンがもっとも働きやすいと感じる会社は松下電器産業―。日本経済新聞社は2007年8月、「働きやすい会社」調査の結果を発表しました。この調査は、ビジネスパーソンへのアンケートの結果に基づき、企業の人事労務制度の内容や運用を評価し、点数化したもので、「子育てに配慮した職場づくり」など4つの項目別評価と総合評価で企業ランキングを作成しています。
3年連続で総合1位の松下電器産業をはじめ、「子育て配慮」では東芝、「人事評価制度」では凸版印刷などの企業が名を連ねました。
具体的にどんな制度があるかというと、総合1位の松下電器産業は、今年から新たにホワイトカラー従業員3万人を対象とした在宅勤務制度を導入しています。短時間勤務や休暇制度よりさらに踏み込んだ形で、従業員のワークライフバランスの実現を目指しました。
「子育て配慮」1位の東芝は、妊娠・出産で退社した女性社員の再雇用制度を新たに拡充しました。このほか、保育施設の利用料補助サービスを正社員だけでなく非正社員にまで広げた積水化学や、「育児フレックス勤務」を小学校卒業まで延長したダイキン工業の事例などがありました。少子化や人手不足を背景に、各社とも社員の多様な生き方を後押しする方向へと、年々制度を充実させている様子がうかがえます。しかし一方で、こんな声もあります・・・
今川陽子さん(仮名、37才)は先日、第2子の育児休業終了と同時に会社を辞めたばかり。出張も残業もこなさなければいけない職場に限界を感じたと言います。そんな彼女の目にこのランキングはこう映ります。
「今はいい時代になったなあとは思うけど、自分の会社にそういう制度がなければ意味がない。今から就職活動をやり直せるなら、育児フレックスがある会社に入るけど・・・」。世の中全体が育児やワークライフバランスを支援する風潮にあることと、自分自身がその恩恵を受けられるかどうかは別問題。とりわけ、各企業の取り組みが、今いる社員が仕事を続けられることに重点を置いている以上、既に出産や育児で離職している女性たちはエアポケットに入り込んだように取り残された状態にあるのが現状です。再雇用制度も広まりつつありますが、まだまだ一部の企業にとどまっています。
実際、総務省の労働力調査では、働いている女性の割合が出産・育児にかかる年齢層で大きく落ち込む「M字カーブ」現象が一向に解決していません。平成19年版の「男女共同参画白書」(内閣府)は、「男女の雇用機会均等や仕事と子育ての両立支援のための取組が行われてきたものの,出産を機に多くの女性が離職しており,出産前後を超えて就業を継続している者の割合は増えていない」と指摘しています。働き続けるための支援が、一部の企業のものだけではなくもっと広がることが重要であると同時に、再チャレンジのチャンスの充実も切実に望まれるところです。
ただ、風は確実に吹いています。たとえば一歩先を行くのが人材派遣業界です。今、世の中では好景気や団塊世代の大量退職を背景に、人手不足の傾向が強まっています。限られた労働力の取り合いとなる中、企業が社員を囲えば囲うほど求職中の人が減り、人材派遣会社は派遣スタッフの確保が難しくなるという連鎖があります。そうなると「いないなら探せ」とばかりに、人材派遣会社には新たな労働力の開拓が不可欠となるのです。眠れる労働力の最たるものが「M字カーブ」の底を形作る女性たち。熱い視線が注がれています。
託児サービス付きの仕事相談会や派遣で働きはじめた後の託児代金の補助、短時間勤務や週3日・4日勤務といったパート型派遣など、育児支援の面でも働き方の面でも、女性の再チャレンジを後押しするメニューが徐々に広がっています。大手の派遣会社で積極的に育児支援を打ち出すところもあれば、パート型派遣を専門に手がける会社も出てきています。
「働きやすい会社」のランキング自体は、多くの人に直接の恩恵を与えるわけではありませんが、この風潮はめぐりめぐって世の中に吹く風となっているのです。今はまだささやかな風ですが、この風をつかまえて自分への追い風とするのは意欲次第。「働きやすさ」は自分でつかむものと言えるかもしれません。
「働きやすい会社ランキング」
総合評価
1 松下電器産業
2 NEC
3 東芝
4 日本IBM
5 凸版印刷
6 富士通
7 ソニー
8 日本ヒューレット・パッカード
9 三菱電機
10 三井住友海上火災保険
評価項目別
●社員の意欲を向上させる制度
1 日本IBM
●人材育成と評価
1 凸版印刷
●働く側に配慮した職場づくり
1 松下電器産業
●子育てに配慮した職場づくり
1 東芝
*調査は日本経済新聞社が実施。今年で5回目。企業へのアンケートで調査した人事・労務制度の内容と運用を点数化し、ビジネスパーソンへのアンケートで明らかになった「働きやすい会社」の条件として重視される分野の制度に傾斜配分して得点を算出。上記4つの項目別と総合で得点の高い順にランキングした。399社の企業と2600人のビジネスパーソンから回答を得た。
ビジネスパーソン調査では、休暇のとりやすさや適正な労働時間、適正な人事評価などが重視する条件として高い回答率だった。
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