★「3人で行こう!仕事も子どももあきらめない!」インタビューは、【3人の子どもを育てながら、独自のワーキングスタイルで好きな仕事をして輝いている女性たち】を紹介し、その生き方の秘訣を伺うコーナーです。さまざまな理由から、働きながら子供を産もうかどうか迷っている皆さんの、お役に立てれば幸いです。
■「自らの子育ての経験から、授乳服製造販売を開始〜ストレスフリーの社会を目指す」
 

光畑由佳(みつはた ゆか)さん モーハウス代表(正式名称は、モネット有限会社代表)

 
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■ 「世の中に対して不便と思ったことは、まずは、自分の力で解決できるかどうか考えてみます」
表参道駅から徒歩数分。ファッショナブルな青山通りに位置するのが、授乳服専門店「モーハウス」青山店だ。授乳服というイメージからは想像もできない、いかにもお洒落なブティックといった風情。授乳服ということに気付かず入ってくる若い女性も多いという。
「いらっしゃいませ〜」とにこやかに応対してくれたのは、生後数ヶ月の赤ちゃんをベビースリングで抱っこした女性スタッフ。こちらは、はじめて見る光景に面食らってしまったが、まるで何ごともないように赤ちゃんを抱えたまま、接客、レジ打ち、さらにはラッピング(!)までも行っている様子に、カルチャーショックを覚えた。
それもそのはず、モーハウスは「子連れカンパニー」として、今各方面で注目されている話題の会社なのだ。
昨年秋、「経済産業省IT経営百選最優秀」を受賞したことで、男性への知名度も急上昇している。
明るくファッショナブルな街、青山は、子どもが産まれるとなかなか来られなくなる街だ。そこにあえて出店することで、「色々な世代の人に子育てについて理解してほしい」と語るモーハウス代表の光畑由佳さん。
モーハウス青山店には「子育て中の人にこそ、お洒落して来店してほしい。ちょっと晴れの場所で、ここに来た人同士が、椅子に座ってゆっくりコミュニケーションしていってほしい」という光畑さんの願いが込められている。
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(昨年11月に青山店開店1周年を記念してモーハウスのファッションショーが開かれたので取材に伺わせていただいた。ファッションショーの様子はこちら
                            


実際にお会いした光畑さんは、お店のイメージ同様、とてもお洒落な女性。モーハウスのゆったりと心地よさげな服が、個性的でとてもよく似合っていた。足が痛いのに、無理してヒールの靴を履いてきた自分が恥ずかしくなるほどだ。
光畑さんの起業のきっかけは、自らの子育て中、中央線の車内で周りの目を気にしながら授乳せざるを得ず、恥ずかしい思いをした経験が原点だ。
「外で授乳ができないと、母乳で育てる人は外出できない。どうにか道具で解決できないのか。それがないなら自分で作ってしまえ」と考えたのだ。大学時代被服学を専攻していた経験を活かし、日本ではまだ馴染みのなかった授乳服の試作品を作り始めたところ、数ヶ月後には、口コミでポツポツと注文が来るようになった。しかし、当時は子育て中のほとんどの女性が「授乳服」という言葉すら知らず、多くの人に授乳服のよさを理解してもらうには時間がかかったという。
光畑さんは「授乳服を通じて実現できる子連れの新しいライフスタイルを広めたい」という思いから日々奔走。ネット販売はもちろんのこと、茨城県つくば市の自宅で授乳服を実際手に取ることができるオープンハウスを始め、地域でのイベントを開催し始めたのもこの頃だ。
さまざまな母親たちが集うようになり交流が深まるにつれ、販売も軌道に乗りはじめた。
試作品を作りはじめてから6年後、「私はこの仕事をこれからも続けていきますよ」という決意表明を込めて「モーハウス」を法人化、モネット有限会社を立ち上げ、現在に至る。
「もともと編集の仕事をやっていたこともあり、情報発信することが好きなんです。まさか仕事になるとは思いませんでしたね」と、光畑さん。
あのとき、子連れの外出をあきらめてしまっていたら、今のモーハウスは誕生しなかったのだ。一見、無理だと思われることを可能にしてしまうところが、光畑さんのすごいところだ。
「情報発信が好きなので、多くの人によいものを伝えたいんです。例えば行政に働きかけて授乳室を作ってほしいというような他力本願は私には合わない。それはそれで素晴らしいことだけど、私は自分でできることをやって、それを発信したいんです。世の中に対して不便と思ったことは、まずは、自分の力で解決できるかどうか考えてみます」と光畑さんは目を輝かせる。
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■ 「「専業主婦」「保育園に入れてバリバリ働く」という二者択一はおかしい。赤ちゃんと好きなだけ接して、自然体でいけばいいんです」
また、モーハウスのいちばんの特徴は、スタッフのほとんどが子どもを持つ母親であり、子連れ出勤も可能というところだ。
茨城県つくば市の本社でも、内勤スタッフの何人かは子連れで出社しており、子どもをお昼寝布団に寝かせたり授乳したりしながら、思い思いのスタイルで仕事をしているという。
「スタッフの採用基準は、いかにモーハウスの活動に共感してくださっているか。
だから、自然とユーザーさん、つまり赤ちゃん連れの方が希望されるんです。
確かに、子連れのスタッフを採用することは、企業にとってはリスクだし、コストもかかります。でも、企業にとっては優秀な人材を採用できる手段なのにもったいない」と光畑さん。
あえて子連れのスタッフを採用することで、企業や社会に対して「こういう人を使わなきゃもったいないじゃない?」というメッセージも込められているという。
「「専業主婦」「保育園に入れてバリバリ働く」という二者択一はおかしいと思うんです。その間の、あいまいな働き方があってもいい。モーハウスが、フレキシブルな働き方の提案になればいいと思っています。応募する人も、モーハウスのやり方にインパクトを感じて応募してくれています。赤ちゃんと好きなだけ接して、自然体でいけばいいんです」。
光畑さん自身、日々の子育てを通じて「どうにかして悪い方向をいい方向に逆転できないか」という発想は、鍛えられているという。
「もしもクレームがあっても、そこから何かを学べないかを考え、結果としていいほうに活かす。これも子育ての成果だと思う。子連れ出勤でさえ、特色を出してメリットにしているでしょ?」と笑う。
実は、光畑さん自身は、若い頃は「子どもを産んだら、自分の仕事人生はおしまい」と思っていたという。1989年入社の雇用機会均等法の世代。「女性の会社でのキャリア」が声高に叫ばれ、先輩たちの道を追うように刷り込まれており、光畑さんも例外ではなかった。
でも、子どもを産んでみてはじめて「すごく楽しい」と実感。「若い頃にモーハウスの事例を見ていたら、人生違っていたと思う」と当時を振り返る。
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■ 「子どもにも仕事を与えて、巻き込むんです。子どもだけ蚊帳の外において大事にするという必要はないと思っています」
ところで、日々忙しい社長業をこなす光畑さんだが、3人のお子さんの子育てとどのように両立させているのだろうか。その工夫を伺ってみた。
「月に1回程度、両親に手伝ってもらっていますが、あとは自分で夕飯を作っていますね」。本当は、自宅兼会社の隣に、家族やスタッフのご飯を作ってくれるおいしい自然食レストランを作りたいという光畑さん。
「自分が欲しいものはみんな欲しいでしょ。場所があればすぐやりたいですね」といたずらっぽく微笑む。
現在、光畑さんは、自宅兼会社で毎日夜8時過ぎまで働いているという。自宅の隣が会社なので、子どもも行ったり来たり。子どもが学校から帰ってきた時にいないことも多いが、近いところにいることの安心感は大きいという。
「私も、自営業の家庭で育ったので、学校から帰って一人でも、店にいけば誰かがいた。
自分が過ごしてきた環境とあまり変わっていないんです」。
夜8時くらいになったら子どもにご飯を食べさせて、その後は自宅でパソコンを打ちながら仕事を続けるのが日々のスタイル。「子どもには仕事をしているところは隠さないで見せるようにする」のが光畑さんのやり方だ。
ただ、職住接近で仕事をしていると、仕事とプライベートの時間の区別が難しくないだろうか?
「子どもにも仕事を与えて、巻き込むこともあります。子守りやDMのラベル貼りをやらせたり。子どもも人の役に立つのはうれしいんです。子どもだけ蚊帳の外において大事にするという必要はないと思っています。これは昔ながらのスタイルだけど、現代では少なくなってきましたね」。
昔から、人を巻き込むのが得意で、周囲の人をいつのまか協力者にさせてしまうことから「光畑マジック」と呼ばれていると打ち明ける。それは、子育てにも存分に活かされているようだ。
「「スケジュール管理を自分でしろ」ということはいつも子どもに言っています。私はぼーっとしているので、子どものスケジュールまでは把握できない。例えば参観日も子どもが事前に申し出てくれば、できる限り時間をつくるようにしています」。
「光畑マジック」は子ども自身の自立にも一役買っているのだ。
最後に、光畑さんに将来の夢を伺った。
「これまで、目標を持ってがんばろうというより、周りの人たちの力を活かしてここまできているんです。自然にそれに従ってやってきているし、自然の流れに従うのが自分のやり方。
株式上場などを目指すのではなく、今と同じようにスタッフみんなでゆったりやっていきたいと思います。それが憧れかな。いつもストレスフリーな状況でいたいんです。そんな風にハッピーに、自分の環境やステージにあった新しいことをやっていきたいですね」。
「これから、どんな声があってどんな風に向かっていくのか、自分でもワクワクと楽しみ」という光畑さん。「光畑マジック」は、まだまだ続いていく。
そして、「赤ちゃんと好きなだけ接して、自然体でいけばいい」という光畑さんの言葉に、本当の女性の社会進出のカギが隠されてると感じた。(取材 常山あかね)
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●●プロフィール 光畑由佳さん。
モーハウス代表(正式名称は、モネット有限会社代表)。大学の被服学科卒業後、パルコ出版に勤務。出産後、モーハウスを立ち上げる。現在、二男一女の母。
■モーハウス青山店
〒150-0001東京都渋谷区神宮前5-52-2青山オーバルビル1F
TEL/FAX 03-3400-8088   

■3人のお子さんがいてよかったことは?
3人子どもがいると兄弟が下の子の面倒を見てくれて、自分が楽になるという側面がある。小さい子供がいると癒し効果もあるし、特に寝顔には癒される。
「どんな時に子育てを負担に感じますか?」などとよく聞かれるけど、負担に感じてあたりまえという前提に、疑問を感じる。自分にとっては、子どもがいるのは自然なこと。
子育てには特別な興味はないけど、出産は非日常で面白い(笑)。自分の身体が変化していくことが快感。3人でも4人でもいいので、産んでみたい。これから産む人が羨ましい。
■家事・子育てと仕事の両立で意識していること
「子育て」というと、「子どものことが第一」みたいな響きがイヤ。自分のことが後回しで、自分を大事にできないのはおかしい。まずは自分を大事にしてほしい。授乳服もそのメッセージの一つ。
「子どもがいることで自分が我慢してマイナスになる」というのはおかしくて、「今までの人生をもっとプラスに楽しめる」というのがいい。それをみんなに認識してもらえ、社会全体の認識が変わっていくとよい。
■これまで仕事をやってきて一番嬉しかったこと
新潟で地震が起きた時にに、災害支援として何かやりたかった。モーハウスの服のリサイクルの品を本当にきれいにしてラッピングして、一人ひとりメッセージをつけておくることにした。それを何百枚かおくったら、翌年、長岡でモーハウスの服を着て授乳ショー(授乳服のファッションショー)をやってくれたこと。
■ワーングマザーやこれからワーキングマザーを目指す方へのメッセージ
私たちは、保育所の費用が高くても、勤め人としてがんばってきた均等法世代。それはそれでいいが、辛かったら無理に会社にしがみつかなくもいい。いろんな選択肢がある。フリーになったり起業してもいい。国家1種の仕事を辞めて、モーハウスのスタッフになった人だっている。
しばらく社会から離れていると仕事ができなくなるというけれど、細切れの時間で仕事をしなくてはいけないので集中力が高まって仕事の段取りもよくなるはず。残業できない分、効率よく仕事をするのでスキルアップできる。すべては本人の気持ち次第。
妊娠、出産で仕事から離れる期間も大事。大企業に入ったものの、自分がやりたい仕事かわからない人も多い。強制的に一線から引き離されて、頭を冷やして考えられるすごく貴重な時間。そこで、やりたいことを見つければいい。男性にはまとまった休みはないのに、インドに1ヶ月放浪するだけの時間を女性はもらっていると考えれば、ものすごくプラスだと思う。そのときに、選択肢をいっぱい広げてほしい。