★「3人で行こう!仕事も子どももあきらめない!」インタビューは、【3人の子どもを育てながら、独自のワーキングスタイルで好きな仕事をして輝いている女性たち】を紹介し、その生き方の秘訣を伺うコーナーです。さまざまな理由から、働きながら子供を産もうかどうか迷っている皆さんの、お役に立てれば幸いです。
■美術館巡りの趣味がきっかけで、主婦から絵画卸会社社長へ!
山中満子さん
株式会社アークコーポレーション代表取締役
■チャンスはみんなに来ているけど、つかまえるかつかまえないかは自分次第なんです
「会社を立ち上げた時、妊娠7ヶ月だったんですー」。おっとりした京都弁でにこやかに話すのは、華やかで上品な「関西マダム」という言葉がピッタリの山中さん。
美しいトロピカルカラーで亜熱帯の自然や動物を描く、オーストラリアの女流画家「ジョアン・フック」の日本代理店として会社を立ち上げて、15年。絵画卸売会社社長ということで、特別な経歴をお持ちの方という先入観があったが、「会社を立ち上げるまでは、個人で洋服の卸売をしていたものの、ごく普通の主婦だった」という。
山中さんに転機が訪れたのは、ご主人が「美術館巡りが趣味の妻のために」とオーストラリア土産として買ってきた、1枚の絵がきっかけだ。それが、当時まだ日本では現在ほど知られていなかったジョアン・フックの絵だった。「色使いが美しく、ひと目で心がパァーッと元気になり癒されました。あまりにも気に入ったので、友人たちにも勧めたところ、ぜひ欲しいということになって。私がまとめてオーダーをすることになったんです。一個人が、高額な絵を何度も注文するので、きっと向こうも「いったい何者?」と思ったんでしょうね(笑)」。
普通は、いくらいい絵だと思っても、自分で鑑賞するだけで終わってしまうものだが、それだけで終わらないところが、山中さんのスゴイところだ。仮に絵を見る目があったとしても、私だったら「自分だけのものにしたい」と思ってしまい、多くの友人に勧めるだけの心の広さは、ないだろう。
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そんなある日、山中さんに、ギャラリーから運命の電話があった。
「ジョアンが来日するので、会ってみないかと言われたんです。てっきり東京か大阪だと思っていたら、なんと熊本! それも30分しか時間がないということだったんですが、いちもにもなく、飛行機に飛び乗り会いにいきました!」。この時の山中さんの情熱が、天職をつかむことにつながった。
半年ぐらいして、ジョアンさんから「正式に日本代理店をしてほしい」という依頼があり、なんと当時妊娠7ヶ月にして会社を立ち上げたという山中さん。しかも初産だ。臨月を目前にして、迷いはなかったのだろうか?
「チャンスを失いたくなかったんです。してみたいと思ったことは、あまり考えずにまずアクションを起こしてみます。英語を勉強したのだって、この仕事を始めてから。頭でっかちになったらおしまいだと思うんです。与えられた環境に対しては受け身で流れをつかんできた。チャンスはみんなに来ているけど、つかまえるかつかまえないかは自分次第なんです」。それに、山中さんが会社設立を決意した理由はもう一つあった。「ジョアンさんは、当時3才ぐらいのお子さんがいてがんばっている女性。そういう点からも、ぜひ協力したいと思って」。
その後、会社を立ち上げてから、3人の子どもを次々と授かった山中さん。海外のパーティーにも大きなお腹に着物姿で臨み、周囲にビックリされたことも。
「あまり計画性はなく、自然に3人の子どもに恵まれたという感じです。たまたま元気だったので、出産当日まで仕事をしていて、翌日には個室で会社の書類に目を通していました。
赤ちゃんはお母さんを選べないから災難かもしれませんが、生まれたときから仕事をしている母親なので、それが自然だと思って育つでしょ?」と笑う。
仕事をしていると、どうしても、毎日、子どもと触れあう時間が限られてしまうが、
「子どもから話かけてきたり身をすり寄せてきたり、私を必要としているときには、何をおいても子どもの方を見て抱きしめて、集中して話を聞くようにしています。量より質が大切」と潔い。夕方の子どもの習い事の送迎は都合がつく限り自分で車を出し、「子どもひとりひとりと個室で話す時間を大事にする」工夫も惜しまない。
■人柄がよかったり、その人の作品に惚れ込んだりで、心から「みんなに広めたい」と思う人との偶然の出会いを大切にして、仕事をしてきました
あくまで自然体な山中さんだが、天職といえる画商の仕事に気負いはない。
「いいものを見つけると、みんなに教えたがりな性格なんです。「聞いて聞いてー」と言わずにはおれない(笑)。世話好きが高じて、マネージメントの仕事に繋がったのかなと思います。
なので、「●●円以上売れる画家を見つけよう」という気持ちはないんです。人柄がよかったり、その人の作品に惚れ込んだりで、心から「みんなに広めたい」と思う人との偶然の出会いを大切にして仕事をしてきました。そういう意味では、野心的に仕事をしているわけではないんですよ(笑)。その分、自分にしかできないスタイルで、長続きしているのかもしれません。」
山中さんにとって、仕事とはなんだろう?
「社会で一生勉強していきたい。たまたま今選んでいる絵は受け身な素材だけど、これまで服飾を勉強したり、美術館巡りをしたりと芸術が好きだったので、それを元に、色々な人と出会わせてもらい、勉強させてもらえてるんです」とあくまでも謙虚だ。最近、仕事を通じて、環境問題にも興味を持つようになったという。「ジョアンも佐藤潤先生も、自然や動物を描いていて、それは大切なモデルたち。その作品を通じて、自然の大切さを知ってほしい。収益の一部をWWWジャパンに寄付したり、環境についてのパネルを展覧会の会場においたりと、私にできることをしています。子どもたちのまたその子どもたちにも、環境問題を伝えることのお手伝いができればと思います」。
山中さんには、いい意味で、周りの人を巻き込んでしまうパワーがある。そして、そのパワーが人を動かし、人と人とのつながりが生まれ、連鎖していくのだ。
山中さんの世界を股にかけたスケールの大きい仕事ぶりを目の当たりにすると、自分がとっても矮小に見えてしまう。山中さんは以前、知人に「子連れ出張など、先方の理解を得てワガママを通してもらえば、それはワガママではなくなるよ」と言われたことがあるそうだ。その言葉を聞いて、「私の仕事のスタイルはこうです。家庭はこうです。それでもよかったらどうぞ」という具合に、理解してもらえる相手と仕事をすればよいと悟ったという。「体当たりしてみてダメな場合は、また工夫すればいい」と柔軟に考えるのがそのパワーの秘訣だ。海外の出張もなるべく子連れで行くことで、子どもの見聞を広めてあげるのが楽しみという山中さん。
固定観念に囚われずに、一歩踏み出せば、山中さんのように、大きな世界が広がってくるのかもしれない。
●●プロフィール山中満子さん 株式会社アークコーポレーション代表取締役。京都生まれ。大学で服飾デザインを学び、卒業後、個人事業で衣料品の卸売りに携わる。結婚後、ジョアン・フックの絵に魅せられ、絵画の卸売会社を設立。同年長男を出産し、現在、二男一女の母。
■3人のお子さんがいてよかったことは?
出張などで留守をしているときは、本当に3人いてよかったと思う。子供の社会ができあがっているから。お兄ちゃんが、お風呂掃除をして、弟、妹を寝かしつける。子供たちも楽しんでいて、そんな姿を見ると、かえって母親がいなくてしっかりしてよかったんじゃないかと思う時がある。
友だちに相談されると、「3人兄弟っていいよー。産みなさい、産みなさい!」とみんなに勧めている(笑)。
■家事・子育てと仕事の両立で意識していること
最初から、専業主婦でいる自分というのは、考えていなかった。子どもが産まれてすぐ、家のお手伝いをしてくれるスタッフを2人雇って、ローテーションで家事全般をしてもらっている。どうしても夫と自分が同時に出張に出るときは、母親に頼んでいる。本当に、周りの人に恵まれたと思う。色々な人の力を借りて、子どもを育てることができている。
子供を外に預けることには、抵抗を感じていた。なるべく家で育てたい気持ちがあって、保育園には入れず、幼稚園に入れた。私がいない時は、スタッフに家に来てもらって育ててもらった。
時間も自由になるし、この職業だからこそ、仕事と子育てを両立できたと思う。
これまで夫の理解があるからこそ、仕事を続けてこれた。ただ、会社や育児を手伝ってくれると思っていた夫は、航空・宇宙機器部品などを製造する会社の経営者として忙しく、無理は言えないという思いがある。家事育児は、私だけしかできない、母親でしかできないポイントは押さえるようにしている。
■これまで仕事をやってきて一番嬉しかったこと
自分の誕生日が、東京のジョアンの展覧会と重なり家に帰れないことがあった。ジョアンがそれを知り子供たちと過ごせないことを心配して、私のために花の絵を描いてプレゼントしてくれた。「家族に会えない満子のために」とメッセージを込めて描いてくれた絵が私の宝物だ。
また、以前、ジョアンがオーストラリアのギャラリーを閉鎖することになったので、次男を連れて飛んで行った。その時、みんなの前で、「満子というパートナーと出会って本当によかった」とスピーチしてくれた。ジョアンの絵に憧れてこの世界に入ったので、そこまで評価してもらえて幸せだった。もっとバリバリと働く代理店はいくらでもいるのに、私でよかったと言ってくれたのだ。いいパートナーに巡りあって、私が生かされていると感じた。
■ワーキングマザーやこれからワーキングマザーを目指す方へのメッセージ
リラックスして、気持ちをゆったり持ってほしい。よいアイディアを出してよい仕事をするには、心に余裕が必要。
某ブランド会社の社長は3日しか社長業をせずあとは子供との時間を大切にするそう。
「週5日必ず働かなくてはいけない」という時代でもなく、色々な形態の仕事がある。自分たちの家庭や子どもにあった形態の仕事をしてほしい。子どもは母の背中を見ているし、協力してくれているのを感じる。自信を持って仕事をしてください!
■お知らせ
8/1〜8/7まで、日本橋三越で、 佐藤潤氏、ジョアン・フック氏の展覧会を開催中です。ぜひ、山中さんの人生を変えた絵画を生でご覧になってみてはいかがでしょう?
また、今回の展覧会にちなんで、画集&ミニフレームのプレゼントを特別にご提供いただきました。ご応募は、ワーキングマザースタイルというサイトにて、8月末まで受け付けております。奮ってご応募ください。
(取材 常山あかね)
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