★「3人で行こう!仕事も子どももあきらめない!」インタビューは、【3人の子どもを育てながら、独自のワーキングスタイルで好きな仕事をして輝いている女性たち】を紹介し、その生き方の秘訣を伺うコーナーです。さまざまな理由から、働きながら子供を産もうかどうか迷っている皆さんの、お役に立てれば幸いです。
■子育てを通じて出会った絵本を職業に
中村朝子さん
こどもの本のみせ「ともだち」スタッフ(共同経営)
JPIC(財団法人出版文化産業振興財団)読書アドバイザー
■子育てが苦手な人にとってこそ、絵本はよい武器になるんです
慶応大学のお膝元、日吉駅から歩いて15分ほどの閑静な住宅地の一角に、こどもの本のみせ「ともだち」はあった。地域で親しまれ、今年33周年を迎える伝統ある絵本・児童書専門店だ。狭い店内に、ところせましと絵本、児童書、絵本関連のキャラクターグッズが並んでいる。
置いてある本は、売れ筋というよりも、選書へのこだわりや愛情が感じられる本ばかり。自分のお気に入りの本の数々も、ちゃんとこの店には並んでおり、まるで家の本棚のような心地よさを感じて、思わず小躍りしてしまう。
そこに、TシャツとGパン姿で忙しく店番をする中村さんの姿があった。この店の共同経営者として、スタッフをやりはじめて5年。中村さんの勤務は、土曜日の店番と平日1〜2日程度の出勤、自宅でのPC作業が中心だ。小さい書店なので、店番、仕入れ、WEB制作、イベント(読み聞かせの会)からすべてを担当している。専門書店ということで、現在売り上げは上り坂ながらも経営は厳しく、スタッフで分ける報酬も、時給にしてわずかだという。
もともと、さぞかし絵本に興味があったかと思いきや、大学の理工学部を出てメーカーで携帯電話の設計開発の仕事をしていた中村さんは、子どもが産まれる迄は「絵本には全然関心がなかった」という。
中村さんが絵本に興味を持ったのは、子どもに初めての絵本を買い与えたことがきっかけだった。
「まだ小さいのにシーソーの話を選んでしまったんです。1才くらいなので、重い軽いもわからず、反応もなく大失敗。我ながら、とんちんかんなものを選んでしまったと落ち込みました(笑)」。
そんな時、パソコン通信の子育てフォーラムに入っていた中村さんの夫が、
「百町森」という有名な、子どもの本とおもちゃの店のスタッフの人らと知り合う。「相沢康夫さんの『好きッ!絵本とおもちゃの日々』のサイン本をもらって。それを読んだら、すごく楽しかったんです。私が知らない最近の80年代くらいからの絵本にもとても面白いものがあるのを知り、絵本の世界にはまっていきました」。
中村さん自身、絵本と接するうちに、小さい頃の思い出がふいに浮かんできたという。
「自分には、絵本といえば『ぐりとぐら』『ちびくろさんぼ』とかの思い出があったんです。読んでもらったことは覚えてないんですが、お母さんが眠そうだったことや、本の内容自体は覚えていて、記憶が蘇ってきたんです」。
もともと、子どもと遊ぶのがあまり得意ではなかった中村さんだが、絵本にはまりだしてからは、親子で過ごす時間が楽しくなり、日常生活でも、「あの本に出てたのがあれだね?」と絵本を通じた共通の体験があるため、話題が広がっていったという。「こんなに楽しいならみんなに広めなくちゃ!」というのが現在の仕事を選んだ原点だ。中村さんは、自身の体験から絵本の魅力をこんな風に語る。「子育てが苦手な人にとってこそ、絵本はよい武器になるんです」。
■家事・育児だけをやっている自分は、自分ではないような気がしたんです
その後、中村さんは、地元の図書館で「親子で楽しむ本の世界」という講座を受講。読み聞かせの活動を勧められた。当時、子どもは0才と3才。それまでは、黙々と家で楽しんでいた絵本だが、そのよさを広めたくて、地域の読み聞かせの会のボランティアに参加。そのメンバーの中に、こどもの本のみせ「ともだち」の元スタッフがいるのを知り、積極的に見学に行かせてもらったり、「何かお手伝いができれば」とさりげなく伝えておいたという。
ある日、その知人から、「ともだち」の経営が思わしくなく、新しい経営スタッフを募集していることを聞き、「夫のいる土曜日の1日だけでも仕事をしたい」という思いで「いちもにもなく飛びついた」という。
当時、3才と5才のお子さん2人を抱え、不安はなかったのだろうか?
「家も遠かったけど、このチャンスを逃したくなかったんです。やりたいことを我慢できないタイプなんですね。正直、家族に気兼ねする気持ちはありましたが、すぐに主人を説得しました」。ほどなく、3人目の子どもを出産したが、店番ができない間も、自宅でできるメールの仕事や、書店のホームページ作りに励んだ。
読み聞かせの会の先輩の中には、中村さんの大変そうな様子を見て、「子どもが手を離れてから、活動してもいいんじゃない?」というアドバイスくれる人もいたという。
「家事・育児だけをやっている自分は、自分ではないような気がしたんです。やりたいと思ったことは、何をおいでてもやりたかった。
子育てが終わってからというのでは、3人も子どもがいるので、活動をはじめるまでに十数年もかかってしまう。我慢したら、きっかけを失うと思いました。それに、子どもが小さい時期だからこそやりたいのかもしれない。自分の子どもに絵本を読むだけではなくて、他の人に発信したかったんです。
そうすることで、子育てを終えたときは、もっと花開いていたい。きっかけは子どもだったけど、子どものためにはじめたわけではないんです」。
子どもたちは、たまに「絵本は好き?」と他人に聞かれると、「(絵本は)お母さんが大好きなの!」と答えるという。「自分が輝いていれば子どもにもきっとよい影響がある」というのが、中村さんの信念だ。
■自分の夢の仕事と、お金を稼ぐための仕事を上手に使い分けて目標へと進む
「その子が大人になったときに、記憶に残る、親子のお気に入りの1冊を生む手助けをしたいんです。母親が読んでくれたという思い出は記憶に残ります。時間があっても子供と遊ぶのが苦手な人にも、絵本はよい武器になります。忙しく働いているお母さんでも寝る前に1冊本を読んであげることで、子どもの思い出に残ると思うんです」。熱心に語る中村さんの言葉には、経験に裏打ちされた説得力がある。
将来の夢は、「自分で新たに絵本の店を開くこと」。
夢を実現する資金を貯めるために、書店の店番がなく子どもが幼稚園に行っている平日の数時間、パートで経理事務の仕事もこなしているという。自分の夢の仕事と、お金を稼ぐための仕事を上手に使い分けて目標へと進む。これが中村さん流のワーキングスタイルだ。「生涯を通じてできる仕事を見つけることができました」と微笑む中村さんの顔には、地に足の着いた自信がみなぎっていた。
好きなことにとことん夢中になれるって羨ましい。私も絵本は好きだが、中村さんほどには好きじゃないということがよくわかった。こじんまりとした書店の中を、所狭しと働く中村さんのキラキラとした笑顔が、どうしようもなく羨ましかった。
●●プロフィール
中村朝子さん。現在、横浜市港北区日吉にある絵本児童書専門店 こどもの本のみせ「ともだち」スタッフ(共同経営)。JPIC(財団法人出版文化産業振興財団)読書アドバイザー。大学理工学部卒業後、メーカーで携帯電話の開発の仕事に携わるが、出産を機に退職。2002年より現職。3児(1男2女)の母。
■3人のお子さんがいてよかったことは?
産むならとことん3人産みたかった。たくさんの兄弟の中でたくましく育てたかったので。3人いてよかったことは、子どもが大きくなると、お互いが世話(遊び)をしてくれること。それぞれの年代でそれぞれの感じ方があり、それが集団で絡み合い面白い。3人各々個性があり、絵本を読んで反応を観察できる。現在の仕事も、子育ての経験をアウトプットすることで、プラスになっている。
■家事・子育てと仕事の両立で意識していること
家事はお母さんの仕事ときめつけずに家族で分担してやること。子供が「お手伝いをやる」というのはおかしい。家事はお母さんの仕事ではなく、みんなでやる「家の仕事」。「夫に家事をしてもらう」という考えはよくない。「家の仕事は家にいる人がやる」という概念を家族に植え付けて、自分自身もラクになった。「土日は必ず1コ仕事をやること」など、家族でルール決めをしている。
■これまで仕事をやってきて一番嬉しかったこと
小さい頃読んだ本を探しに来た人が、その本を見つけて喜んでくれたとき。自分がアドバイスしたプレゼント用の絵本が子どもにすごく喜んでもらえたというメールをもらったとき。自分がやったことによって、ポッと温かい瞬間が生まれたのを感じることができたときが嬉しい。
■ワーングマザーやこれからワーキングマザーを目指す方へのメッセージ
固定観念を捨て、やりがいとお金のバランスを見ながら、色々な形の仕事をうまく組み合わせて夢を実現してほしい。仮に保育園に入れなくても、延長保育がある幼稚園を選んだり、保育園の一時預かりを利用してもいい。預けることが心配な人も、思い切って預けることで、親子共々充実して成長できると思う。
(取材 常山あかね)
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