最近、注目の「社会起業家」。その社会起業家の草分けが、病時保育を中心とした育児・家事代行サービスで知られる、「マザーネット」代表取締役の上田理恵子さん。
ここ最近の新型インフルエンザの流行で、ますます注目されている病時保育ですが、上田さんがマザーネットを立ち上げたのは、2001年のこと。ワーキングマザーを総合的に支援する会社が社会に必要だという強い思いからでした。
この、『働くママに効く心のビタミン』は、上田さんの17年間の会社員時代にはじまり、起業してから現在に至るまでの自身の生きた体験談がたっぷり詰まった、まさに「ワーキングマザーのバイブル」。「仕事も子どももあきらめない」ワーキングスタイルを目指す方、必読の書です。
今回は、「3人で行こう!仕事も子供もあきらめない!」インタビュー特別編として、上田さんに、初の著書にかける思いをうかがいました。
弊社ブログ「キッズタントーレ」記事・・・書評『働くママに効く心のビタミン』
自らの仕事と育児の両立体験から、ワーキングマザーが働きやすい環境作りに使命感を感じ、17年間のメーカー勤務を経て、ワーキングマザーの総合支援サービス会社である株式会社マザーネットを創業。高2と中3の男の子のお母さん。
2006年「第一回にっけい子育て支援大賞」、2007年「女性のチャレンジ支援賞(内閣府・男女共同参画大臣賞)」はじめ、受賞歴多数。
いつの間にかテーマが変わっちゃったんです(笑)
この本は、どんな方に読んでほしいですか?
仕事と子育てを両立することで罪悪感を感じていたり、悩んでいる人に読んでほしいと思います。世の中には、「がんばって乗り越えてよかった」と思っている人もたくさんいます。「悩んでいるのは自分だけじゃない」と感じていただけて、元気になってもらいたいですね。
当初は、3月9日の発売に合わせ、「ホワイトデーに、ママへのプレゼントとしていかがですか」というPOPを書店に出したりして、男性に購入してもらいたかったんです。でも、「『離婚したくなったら』という章があったから、結局、部下にあげた」という声も(笑)。ママ社員を部下にもつ上司の方からも反響がありましたね。
経営者がまとめて購入して、ママ社員に渡してくれたらいいのになぁと思います。
具体的に、読者の方からどのような感想が寄せられましたか?
60代の男性から寄せられた、「娘が働いているので保育園の送り迎えをすることになったのだけど、この本を読んで娘の気持ちがはじめてわかった。じいじいもがんばります」との声が印象的でした。男性からの感想が多いことに驚きましたね。
また、「全部で三度泣きました」「泣いて泣いてまた泣きました(フジテレビの佐々木恭子さん)」など、本を読んで泣いたという感想も多く寄せられました。
意外にも、独身女性からの反響も大きかったですね。
パートの人にも派遣の人にも、これから働きたい人にも、幅広い方にぜひ読んでいただければと思います。
待望の上田さん初の著書となりますが、出版に至った経緯を教えてください。
これまで本業が多忙のため出版の依頼はお断りしていたのですが、今回は、編集者の三田さん(日経BP社)の強い熱意のもと、実現しました。
当初は、「病時保育のあり方」というテーマで取材にこられたのですが、三田さんもワーキングマザーということで、お話しているうちに、いつの間にかテーマが変わっちゃったんです(笑)。
ご自身も、ワーキングマザーとして色々と悩みがあり、まさにこのような本を欲していたのだと思います。
キャッチコピーなども、三田さんと二人で一生懸命考えました。
おふろでひざをかかえて一人で泣きました
上田さんは、会社員時代、育児休暇取得第一号、総合職第一号ということですが、どういう方を働き方の参考としていましたか?
当時は、相談できる人やモデルになる先輩もいなかったので、ぜんぶ自分で決めていました。
昇格の時期になると、同期社員と同じように昇格できないことが悔しくて、おふろでひざをかかえて一人で泣きました。「男性と同じように大学を出て就職をしたのに、子供を産んだだけでどうして・・・」という、そのときの悔しさが、今の私の原点になっています。
現在は、当時と比べて女性をとりまく環境が変わってきていると思いますか?
今は逆に、責任をある仕事をまかされすぎて、ストレスをかかえている女性が増えています。「管理職になったはいいが夜の10時〜11時まで働きすぎて、子どもと過ごす時間がとれない」という悩みも多く寄せられるようになりました。
以前とは逆の悩みが増えてきたわけですね。
ところで、上田さんは、どのような社会が理想だと思われますか?
今は子どもが小さくてたくさん働けない人も、子どもが大きくなったら本格的に働ける社会が理想ですね。「今大切なことを、大切にできる社会」が理想的だと思います。
ご自身のワークライフバランスはいかがですか?
会社員だったころは子どもといる時間がとにかく足りなかったですね。
一緒の空間にいるだけで幸せでした。
起業してからは自分のペースで仕事ができますので、子どもとの時間も十分とれるようになりました。
当社は子連れ出勤OKですから、病気の子どもを横で寝かしつけながら仕事をすることもありました。大阪の本社も、現在部屋を2つ借りていて、1つは託児付きルームなんです。
子どもは、保育研修も兼ねてケアリストさんに見てもらったり、ときには社員の子どもである高校生・大学生にアルバイトで見てもらうこともあります。
社員同士が勤務中におかずを作りあって
社員の方も、子連れ出勤で気兼ねなく仕事ができるわけですね。
ほかにも、他社にない当社ならではの特徴として、「おかずの持ち帰り制度」があります。社員同士が勤務中におかずを作りあって、家に帰ったらすぐ夕食を食べられるようにしています。うちの子どもたちも、どの社員の味付けかすぐわかるようになって、「今日は、●●さんの煮物やろ?」と喜んで食べています。1パックたったの200円で手作りの煮物も食べることができて、独身者にも大好評です。調味料は会社持ちで、食材は、社員でお金を出し合って購入しています。
それは素晴らしい制度ですね!私も、日々の一番の悩みが、夕食の支度なんです。
会社で仕事をしながら家事ができるなんて、いいでしょ?事務作業の合間に圧力なべで煮物を作り、おやつにはワッフルを焼いたりしてます。社員の健康には手作りが一番です。現在、社員は7人でパートさんも含めると12人。お互いが協力して楽しくやっています。
当社では、子育て中の女性にかかわらず、病気などで外での勤務が難しい方など、いろいろな事情を抱えた人に働いてもらっています。
著書の中で、育児休業明けの単調なお茶汲みの仕事を自分なりに工夫して、上司に認めれらるようになったという話に感動したのですが。
子どもが保育園でがんばっているのだから、肝心のお母さんがくさっていたり、ただ仕事を流していたりしたら、別れ際に泣いていた子どもに申し訳ないという気持ちでした。
当時は、コピーの仕方を工夫したり、お茶の入れ方に命をかけたりしてましたね(笑)。
誰もやらないなら私がやるしかない!
1994年に「キャリアと家庭両立を目指す会」をお一人で立ち上げられたとき、新聞にとりあげられ、大変な反響があったそうですね?
ちょうど出産予定日に、新聞にとりあげていただきました。「とりあえずやりたい!」という気持ちが先立ち、新聞社の方に思いを伝えたところ、趣旨に大いに賛同してくださったんです。
問題意識を抱えている人は多いと思いますが、上田さんのように一歩を踏み出すことは、なかなか勇気がいると思います。その秘けつを教えてください。
関西気質というのもあるんでしょうか。ただ待っているだけでは、お役所も誰も、解決してくれないんですよ。
私が起業したときは、波が来て、自然と大きな海に押し出された感じでした。「誰もやらないなら私がやるしかない!」と覚悟を決めました(笑)。
普段は、流れに逆らわず常に真っ白な心を持つようにして、自分の考えに固執しないようにしています。
それと、色々な人の話を聞くことで、すでにあるサービスではなく、本当にみんなが求めているものが何かを考えることを心がけていますね。
家事・子育てと仕事の両立で意識していることは?
子どもが2人とも塾に通っているので、夕食の時間は10時半と遅いです。
でも、必ず家族そろって夕食を食べるということを大切にしてます。
「お母さん、今日、仕事でこんなトラブルがあったんやけど」「それは困ったな〜」などと、にぎやかに食卓を囲んでいます。
ワーキングマザーやこれからワーキングマザーを目指す方へのメッセージをお願いします。
働く理由を常に問いかけてみてください。私は、年に4回ほど、自分自身に問いかけるようにしているんです。「自分の能力を開花させる」、「社会的意義」という目的が2つそろってはじめて、前向きに楽しく働き続けることができるのではないでしょうか。人は、必ず自分にしかできない役割があると思うし、それを実現する仕事こそが、天職だと思います。
子供に対しては、SOSのサインをしっかりと汲み取ってあげることが大切です。
仕事の手を緩めなければいけないときには、緩めることも必要です。
仕事への本気度を見せつつも、子供のことを心から好きだということを、しつこいぐらい(笑)、言葉で示してあげてください!
本日はありがとうございました!
インタビューを終えて
今回、新宿の弊社で取材をさせていただきましたが、「この事務所、都心なのに静かでいいですね。うちの会社もこういうところを探していたんです!」と、帰り道にその足で不動産屋に赴き、同じ建物の一室を契約された上田さん!その潔いまでの行動力を目の当たりにし、上田さんの起業家としての魅力を実感しました。
私も、上田さんのように天職を見つけ、それに向かってがんばりたいと思わされました。本当にありがとうございました!
(常山あかね)
イラスト/山田陽子