『子どもが元気に育つ毎日の簡単ごはん』(学陽書房)著者: 岡本正子

家族、特に子どもにできるだけいいものを食べさせたい、でもなかなか作る時間をかけられない……。そんな悩みを持つお母さんは、少なくないのではないでしょうか。最近は食に関する情報が氾濫し、安全性も気になりますね。そんなお母さんにお勧めしたいのがこの
『子どもが元気に育つ毎日の簡単ごはん』
です。
著者の岡本正子さんは管理栄養士、国際薬膳士の資格を持つ3児のお母さん。現在は、東京都国分寺市の矢島助産院、東久留米市のさかもと助産所などで、食事作りや妊産婦さん向けの講習などの仕事に携わるかたわら、地域で、お母さんと子ども向けの食に関する講習・講演活動を行っています。
ここで紹介されているのは、タイトルにあるとおり、作るのが簡単で子どもの身体に良い料理レシピ。管理栄養士さんの視点と、自身の子育て経験から考案されたオリジナルレシピは、助産院の講習会で紹介されたものを含め、200以上にものぼります。取り分け離乳食、基本の和食、おやつやお弁当、子どもと一緒に作るメニューなど、バラエティに富んだレシピは、どれも健康的でおいしいものばかりです。
この本では、まずレシピの料理を作る前に、各章に書かれた岡本さんの食に関するコメント、Q&A、コラムなどを一読してみるのがお勧め。食事作りだけでなく、子どもの食に関する悩みを持つお母さんたちに役立つ情報が散りばめられています。
 


たとえば、「離乳食」の章では、マニュアル通りの月齢・内容にこだわらず、子どもの様子を見ながらじっくり進めていくことを推奨。作り方も、昔ながらの「取り分け」が基本です。このことで、離乳食作りそれ自体が楽になるのはもちろんですが、子どもも、家族が同じものを揃って食べる大切さを認識できる、とのこと。つまり「取り分け」は楽な上に、正しい食習慣の姿勢を示すことができる、理にかなった方法なのです。「個食」や「孤食」が問題になっている今、昔ながらの優れた知恵を改めて見直したい、と感じさせられます。
同時に、離乳食ひとつとっても、子どもが国のガイドライン通りに食べているかにばかり気を取られ、他の子の進捗状況と比べて一喜一憂してしまう、そんな最近のお母さんたちの育児傾向に、ふと気付かされます。食事を含めた育児全般において、大切なことは子どもの様子をじっくり見て、焦らないこと。つまらないことにエネルギーを消耗せず、育児をもっとシンプルに、そしてアナログ感覚で考えてみれば、お母さんはずいぶん楽になるのかもしれません。
ところで、実は筆者も岡本さんがお勤めされている矢島助産院でお産をし、産前・産後に岡本さんの講習を受けた1人です。「食の講習会」では、妊婦も乳児をおぶったお母さんも一緒になって調理実習をしていました。妊娠中の食事、母乳育児に良い食事、離乳食や幼児食を習う中で、いつもおっしゃられていたこと、またこの本の読者に岡本さんが最も伝えたいことは次のようなことです。
 「料理する楽しさを知ってもらいたい」
 「よく食べることはよく生きること。食べることの大切さに気付いてもらいたい」
  
 「人の健康を左右するのは生活の仕方、そして中でも食事は大切なこと。成果はすぐに見えないけれど、それは必ず実を結びます。食事作りの大役を担うお母さんには、料理を楽しんでもらいたい、そして健康で幸せであってもらいたいですね」
いくら食事内容が大事といっても「あれもこれもだめ」と食べるものに制限を加え過ぎたり、何が何でも手抜きなしで作ったり、という極端な食事作りをしていたのでは、料理自体が嫌になってしまうもの。特にワーキングマザーが夕食作りに時間をかけすぎれば、子どもの就寝時間にも影響します。
そうならないために、岡本さんは、身体に不自然なものをなるべく避けて、短時間に作れる、料理の知恵とコツを伝授しています。これらはみな、岡本さんが仕事と子育てを両立する長年の経験から得たこと。おそらく、忙しいお母さんほど共感できることが多いのではないでしょうか。読み進めながら料理を作っていくと、こだわる必要のないこと、忙しくても手間をかけるべき大切なこと、を自然に感じ取れるようになるでしょう。
子どもの体を育てるのが「食べ物」なら、子どもの心を育てるのが「食べ方」。忙しくても食事内容と食習慣、そして生活習慣を整えることで、結果的に子育てもスムーズに運ぶような気がします。同時に、断片的な情報に縛られていた心をほどいて、当たり前の楽しい食生活や育児の原点に帰ることができる、そんな気持ちになれる1冊です。